地域に溶け込むディープな体験ができるスナックにようこそ!
夜の街をひっそりと照らし続ける「スナック」は、日本に暮らす人々に長く愛されてきた小さな飲み屋さんで、人と人が心を通わせる憩いの場です。
そして、少し謎に包まれた店内には、ガイドブックには載らない日本のディープな魅力や文化が詰まっています。
そんなスナックに勇気を出して一歩足を踏み入れれば、目の前には新しい世界が広がるでしょう。
この記事では、全国850軒以上のスナックの扉を開けてきたスナックマニアの五十嵐 真由子さんにスナックの魅力と楽しみ方を尋ねました。
目次
スナックとは
スナックとは、カウンター越しに接客を行う小さな飲み屋さんを指します。
明確な定義はありませんが、店主は女性である場合が多く、お客さんからは親しみを込めて「ママ」や「ママさん」と呼ばれています。
ママお手製の料理や軽食をつまみながらお酒のグラスを傾け、お客さん同士やママとの会話を楽しむ場所として昔から親しまれています。ママの人柄に惹かれて通い続けるお客さんが多く、そこには家族のようなコミュニティがスナックにはあります。ママを中心とするコミュニティが生み出す、アットホームで居心地の良い雰囲気がスナックの大きな魅力と言えるでしょう。
そんな居心地のよさを維持するためにも、会員制にしているスナックは多く、いきなり訪れても入店できないことがあります。
また、会員制のスナックは宣伝していないため、ネットやガイドブックでは見つけられず、探すのにもひと苦労するでしょう。
スナックの料金体系
スナックの料金体系は、”セット料金”と呼ばれるスタイルが代表的です。
セット料金には、以下の内容が含まれています。
- 席料
- お酒代
- おつまみ代
- 水と氷代
- カラオケ料金
ただ、細かな内容やシステムはお店ごとに異なるので、実際に入店する時は注意しましょう。お店によっては、ビールやカラオケなどは別料金が発生することもあるため、料金については入店時に確認することをおすすめします。
スナックの誕生
キャバレーが戦後に繁栄していた時期、特に1950年代から1960年代にかけて、スナックはその一部として発展しました。キャバレーが大規模なショーやダンスホールとしての役割りを担う中で、より小規模で親密な空間を提供する形態として、スナックが誕生しました。
1960年代後半から1970年代にかけて、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)の改正により、女性が酒を提供する店の営業が厳しくなり、その一方でカウンター越しに接客する喫茶店の形式がスナックのスタイルに影響を与えました。スナックは、カウンターをはさんで親密な関係を築く場として、喫茶店文化の親しみやすさを取り入れる形で進化しました。
スナック文化の成熟と変容
バブル経済期には、スナックやキャバレーは隆盛を極めましたが、バブル経済崩壊後は需要が減少し、生き残りをかけた競争が激化しました。それでも、スナックは地域密着型の社交場としての役割を維持し続けました。バブル経済の崩壊後、風俗産業が多様化し、キャバレーの衰退が進む一方で、スナックは地元密着型の飲食業態として生き残り、特に中高年層に支持されています。
スナックの現在
現在では、スナックは地域社会の中で、親密な交流や心の癒やしを提供する場所として存在し続けています。また、ノスタルジアを求める人々や、地元のつながりを重視する層にとって、スナックは重要な文化的存在です。
コロナ禍で軒数は減少するも価値が見直されたスナック
2020年以降、コロナの影響でスナックは減少し、廃業したスナックは6,000軒とも1万軒とも言われています。一方、コロナ禍で分断されたことで「人と人とのリアルな場でのつながり」が再評価され、その象徴とも呼べるスナックは今後も大切な憩いの場所として在り続けていくでしょう。
実はスナックの方がコンビニよりも多い?
スナックマニア・五十嵐さんによると、日本全国には約10万軒のスナックがあるそうです。
数字だけ聞くとピンとこないと思うので、コンビニと比較してみましょう。
全国のチェーン店舗データを提供する日本ソフト販売株式会社の調査では、全国のコンビニの店舗数は約5万7千件(2024年5月時点)と発表されていました。
日常に溶け込んでいるコンビニよりもスナックの方が約2倍も多いのは、びっくりしませんか。
スナックは私たちが思っている以上に身近な存在だと言えそうです。
ディープな体験ができるスナックならではの魅力
ここからは年間200軒以上のスナックの扉を開けている、スナックマニア・五十嵐さんが語る、スナックの魅力に迫ります。
スナック経験豊富な五十嵐さんだからこそ伝えられる内容を知れば、今まで抱いてきたスナックのイメージを覆す、新たな魅力を発見できるはずです。
個性豊かなママたちと出会える
スナックの魅力を伝えるには、個性豊かな「ママ」たちの存在は外せません。
ママの接客を求めて通う常連客は数知れず、なかには数十年通い続けるお客さんがいるそうです。
なぜこれほどまでに多くの人がママに魅了されるのでしょうか。
そのひとつの答えとして、ママがお客さんの心を掴み、唯一無二の気分を味わえることが挙げられます。
一口にスナックと言ってもその魅力は千差万別で、仕事や家庭、恋愛の相談を優しく聞いてくれるママ、逆に説教や叱咤激励してくれるママ、歌や踊りが上手で歌い方や踊り方を教えてくれるママなど、スナックの数だけ異なる魅力を持ったママがいます。スナックでは、お客さんとの長期的な関係性を重視しているので、性的なサービスではなく心のケアや信頼関係を大切にしてきました。単なるサービスの提供者ではなく、相談相手や人生の伴走者のような存在になることが多く、これが風俗産業とは一線を画すポイントでした。性的な要素よりも、信頼や安心感が求められる空間だったのです。
地域の人々と深く交流できる
観光で訪れるだけでは、地域の人々と交流できる機会は限られてしまいます。
一方で、地元に住む人たちと交流を図りたいと思っている人は多いのではないでしょうか。
そんな時はその地域にあるスナックに行くのがお勧めです。
ママが常連客との会話のきっかけを作ってくれることもあるので、直接声をかける勇気がなくても安心です。
本やネットにはないディープな地域情報が手に入る
生きた情報を入手できるのはスナックならではの魅力と言えます。
地元に根付き、地域の人々が常連客として通うスナックであれば、観光サイトや観光ガイドには掲載されていないディープな世界を教えてくれます。
地域の名店や地元の人だけが知るスポットへ観光したいという人こそ、スナックを訪れるべきです。
もちろん有名な観光名所、名物グルメについても詳しいので、わからないことがあったら質問してみましょう。
新しい発見や有益な情報を得られれば、より充実した旅行になります。
サードプレイスだからこそ生まれる人間関係
スナックは年齢も性別も職種も肩書きも関係なく、ただ一人の人として素の状態でコミュニケーションを取れる場所です。
色々な事情を抱えた多種多様な人たちが集まりますが、そこに上下関係はなくいわゆるサードプレイスとしての役割を担っています。
良い意味で気を遣うことが少ないので、日常のストレスや仕事・人生相談といった家族・友人には打ち明けにくい会話ができるのです。
五十嵐さんによると、ママに身の上話をしに通う男性や女性、恋愛相談をしにくる女性も多いとのこと。
ママを筆頭に酸いも甘いも経験した人生の先輩がいるため、自分では気付かなかった新しい切り口が解決のヒントになるのかもしれません。
あらゆる世代の人とちょうど良い距離感で気軽な人間関係を築き、時には親身になって話を聞いてもらえると、自然と居心地の良さや愛着が増していきます。
SNSが一般的となった現代だからこそ、人と人がリアルにつながるスナックは魅力的な場所と言えるのではないでしょうか。
スナックマニアが教える自分にあったスナックの選び方5選
スナックの様々な魅力を知って、挑戦したいと思った人は多いのではないでしょうか。
しかし実際に扉を開けるのは、怖いイメージがあって特に最初の一歩は思っている以上に勇気がいります。
それでもぜひ入ってみたいという人は、これから紹介する5つの具体的なポイントを参考にしてください。
スナックマニア・五十嵐さんが教えるお勧めの選び方を真似して巡れば、自分に合ったスナックが見つかるはずです。
1. 看板を見てママの世代・お店の傾向を想像する
スナック選びのコツは、扉を開ける前にどんなママがいるのかを推測し、イメージを膨らませることです。
そして最初に見るべき重要なポイントはお店の看板と名前です。
- 英語系(AngelやSmileなど)
- 若い世代のママ
- 名前系(光子・千代・まりこなど)
- 昭和世代のママ
このような形で、名前だけでもある程度はママの世代・お店の傾向が掴めます。
そのほかにも、文字のフォントや装飾・デザインにも趣向が現れやすいため、ヒントとなるでしょう。
複数のスナックを見比べると違いを感じられるので、慣れてくれば自分好みのスナックが看板だけでわかるようになります。
2. スナックのドアで耳をすませば
名前・看板から好みを見つけ出したら、スナックのドア付近で耳をすましてみましょう。
店内から漏れてくる声や歌声から、中の様子や雰囲気を推し量れます。
次のような例が挙げられます。
- 賑やかな声が聞こえた
- 元気なママと常連客と一緒に騒げそう、満席かも
- ○○という曲が流れている
- こんな世代のお客さんが多そう、自分の世代と近いかも
- 大きな声や歌声が聞こえてこない
- 今はお客さんが少なそう、落ち着いた雰囲気かも
- 男性(女性)の声がよく聞こえる
- 同性のお客さんが多そう、女性でも入りやすい(にくい)かも
正解・不正解は重要ではないので、思い思いにイメージを巡らせてください。
実際に入店した時の会話のきっかけにするのもお勧めです。
こうやって、想像するだけでも意外と楽しいものです。
3. 5cmの隙間からスナックの雰囲気を伺う
ここまで来たら、いよいよ最終段階です。
入りたいと思ったスナックのドアを5cmだけ開けて、隙間から中の様子を覗いてみましょう。
そして、どんなママなのか、どんなお客さんが多く、どのような表情をしているのかを観察してみてください。
ポイントはお店の人に気づかれないように、そーっとドアを開けることです。
二重扉になっているパターンや、鈴が鳴るタイプのドアがあるため、くれぐれも慎重さを忘れずに。
まずは中の様子を見た時に感じた自分のインスピレーションを大切にしましょう。
もし何かしらの違和感を覚えた、もしくは馴染みにくい雰囲気のように思ったのであれば、入店は避けてください。
そのスナックでは、楽しめない可能性が高いからです。
少なからず相性は存在し、初心者は最初の経験が強く印象に残るため、入らないという決断が重要と言えます。
上級者になると置かれているお酒のボトルから、料金や雰囲気がわかるようになってきます。
4. 入店したらすぐに料金交渉する
スナックの扉が重く感じる理由のひとつに、”いくらかかるかわからない”というのがあります。
あまり知られていませんが、スナックでは入店直後に料金の確認と交渉ができるのです。
そのため、入店したらまずは料金体系を確認しましょう。
特に予算が限られている場合は『予算は○○円ですが、大丈夫でしょうか』と相談し、ママの判断を仰ぐのが重要です。
良心的なスナックであれば、予算内に収まるように時間やお酒の種類を柔軟に調整してくれます。
難しいと言われたら、諦めて次の機会に訪れれば良いでしょう。
反対に、明確に料金を伝えてくれない、ママやお客さんの態度が気になる時は、丁重に断りお店を出てください。
席についてしまうと帰りにくく、後悔したタイミングではもう遅いからです。
トラブルや嫌な気持ちを避けるためにも、覚えておきましょう。
5. 昼間の事前調査でスナックのホスピタリティを知る
気になるスナックがあったら、営業前の昼間に立ち寄ってみるのがお勧めです。
直接見えないところに、ママやお店の本質、ホスピタリティがあらわれるケースは少なくありません。
シャッター前の”おしぼり”や”ビール瓶”などが綺麗に並んでいれば、ホスピタリティの高いママがいる可能性が上がるでしょう。
同時に良いスナックである場合が多いです。
一方で、粗末な印象を受けたのであれば、接客でも同じように感じるかもしれません。
スナックを楽しむために知っておくべきマナー
ママや常連客との交流を楽しむ、コミュニケーションの場であるからこそスナックには守るべき、独自のマナー・ルールが存在します。
周囲に迷惑をかけないためにも、これから五十嵐さんが教える注意点を覚え、スマートに遊びましょう。
ママの許可を得てから入店する
居酒屋やレストランと違い、スナックではママの裁量で入店できるかが決まります。
ママは常連客の性格やお店全体の空気を考慮したうえで、全員が心地よい最適な空間を作っているのです。
そのため、扉を開けて席が空いていたとしても勝手に上がりこまず、ママに声かけて入店の許可を取りましょう。
常連さんと適切な距離感を取る
スナックを語るうえで、常連客の存在は欠かせません。
しかし、仲良くなりたいからといって、初めて訪れる人が常連客に無理やり話しかけるのはNG行為です。
最初は相手が不快になるようなマナー違反に注意し、適切な距離感を保ってください。
どこかでママが常連客と直接交流できるようなきっかけを作ってくれるので、ママの手腕を信じて身を委ね、自然な流れで生まれる会話を楽しみましょう。
共通点や会話の一部分を糸口に少しずつ距離を縮め、親睦を深めていくのが常連客と仲良くなる秘訣です。
場の空気を壊さない選曲を心がける
スナックならではの醍醐味であるカラオケですが、一人で歌って楽しむ場ではないという意識は必ず持ちましょう。
みんなで盛り上がり一体感を味わうのが、スナックにおけるカラオケの流儀です。
そのため、雰囲気を壊しかねない次のような行動は避けてください。
- 前の人がバラードを歌った後に激しい曲を入れる
- 一部の人しか知らないようなマニアックな曲を歌う
- その場の雰囲気にふさわしくない曲を選ぶ
- お客さんの年齢層とかけ離れたアーティストを選ぶ
- カラオケを独占する
- カラオケの画面を遮る移動
何を歌えば良いか迷ったら、デンモクの履歴確認・検索機能の活用がお勧めです。
年代別にどんな曲が人気なのかがわかります。
曲がなかなか決まらなければ、ママに相談してみましょう。
カラオケは強制ではないため、苦手や乗り気でなければ歌わなくて大丈夫です。
ただし、盛り下げるような言動や歌の後の拍手を忘れないように気を付けましょう。
旅行先でスナックを楽しむ方法
日本旅行を計画する際は、全国各地、小さな地域でも1軒はあると言われるスナックを観光プランにぜひ組み込みましょう。
そこで生活する人々と交流でき、地元の人だからこそ知っている情報を得られるので、土地勘のない旅行者にとってピッタリの場所というのが大きな理由です。
1日目の夜にスナックに行き、2日目以降の旅程を充実させるのがお勧めのスケジューリングです。
繰り返しになりますがスナックは地域の観光案内所と言えるため、インターネットや観光ガイドでは見つからない情報を知れます。
ただ、会員制のスナックが多いため、いきなりお店の扉を開けても、入店できない場合もあります。
ハードルが高いスナックに挑戦したい方はこれから紹介する、いずれかの方法を試してください。
現地の知り合いに連れて行ってもらう
最も安心かつ手軽にできるのは、その地域に暮らす友人・知人が通うスナックを案内してもらうことです。
馴染みのお店に一緒に行けば、マナーや楽しみ方を気軽に知れるので、すぐに溶け込めるでしょう。
既にコミュニティが確立されているため、ママやその他の常連客と会話するきっかけを、友人・知人が作ってくれるはずです。
結果として1人で行くよりも、得られる情報が深く、仲良くなるスピードが早いケースは多いと言えます。
訪日旅行客の方に特にお勧め!スナックツアーへ参加
前項で現地の知り合いに連れて行ってもらうと良いと説明しましたが、それができたら簡単ですよね。
誰もが真っ先に思い浮かぶ手段ながら、旅行先に肝心の友人・知人がいないから困るのだと思います。
さらに旅行で日本に訪れる外国人の方は言葉の壁に加えて、日本特有の文化である”空気を読む”の理解が難しいので、スナックのハードルは想像以上に高いでしょう。
残念ながらスナック側も、外国人を受け入れる土壌が整っているとは言い切れません。
そこでお勧めしたいのが、スナック横丁が主催する”スナックツアー”です。
同ツアーは様々な問題を一気にクリアするだけでなく、記憶に残る濃厚な時間を過ごせる魅力的な内容になっています。
スナックマニア・五十嵐さんが厳選したお店を楽しめるというのもポイントです。
簡単な概要は下記にまとめました。
スナック横丁の概要
- 概要・内容
-
・スナックに精通したガイドと一緒であることで、会員制の店に入る事ができる
・単なる食べ歩きではなく、エンタテインメント溢れる体験型ツアー
・ガイドブックに掲載されていない横丁や路地裏歩きを楽しめる
・会員制のスナックに入れるだけでなく、ママや常連客とのふれあいを楽しめる - 開催場所
- 東京都各地(新橋・新宿・銀座)、神奈川県小田原など
- 平均所要時間
- 2時間半(ツアーによって異なる)
- 参加方法
- 公式Webサイトから予約
- 料金
-
1人あたり18,000円~
※予約は通常2名から
※料金はツアーによって異なる
詳細を知りたい方は、以下の公式サイトをご覧ください。
まとめ
この記事では、スナックマニアの五十嵐さんからお聞きした内容をもとにスナックの魅力や選び方、楽しむポイントなどを紹介してきました。
ママや常連客との交流を通じて、一体感を味わえるスナックは世界でも珍しいスポットです。
そして、日本全国どこにでもある身近な存在というのもポイント。
日本観光の際は、ぜひ地域のスナックに足を運んでみてください。
忘れられないディープな体験ができるでしょう。