
乗れば乗るほどハマる!ロープウェイの魅力&推し路線11選
スキー場や山岳観光地の足として、日本各地に点在するロープウェイ。宙吊りで空中を移動する非日常感と、上空から眺める四季折々の絶景は、ほかにはないロープウェイならではの醍醐味だ。ただ、それだけで満足していてはもったいない。
今回は、全国の路線を乗り尽くし、その実体験を元にガイド本を上梓したロープウェイ偏愛家の中島信さんが、ニッチで奥深いロープウェイの世界をご紹介。
”乗り鉄”から”乗りロー”へ
私は、物心ついた頃から鉄道が大好きでした。その後、いわゆる「鉄ちゃん」になり、2004年に日本全国の鉄道を乗り尽くす完乗を達成。テレビや雑誌などから注目されるようになったのですが、ある人から「ロープウェイも鉄道の仲間だよね。じゃあ乗らないと」と言われて。そう、日本の法律ではロープウェイは索道と呼ばれる鉄道の一種なんですよ。その一言がきっかけで、ロープウェイに本気で向き合うようになり、全国約150の路線を完乗しました。未だに鉄道ファンでもあるんですが(笑)、ロープウェイは年に何十回、月に1~2回は必ず乗りに行っているような感じでしょうか。「乗り尽くしたのにまだ乗るの?」と言われそうですが、目的があって乗りに行くんですよ。搬器が変わったり色が塗り替えられたり、設備が建て替えたりすると必ず行きます。「いい写真が撮れてなかったなぁ」という理由だけで行くこともありますし(笑)。
ちなみに索道には、普通索道と特殊索道の2種類があります。分かりやすく言うと、特殊索道はスキー場のリフトなどのように雨に濡れるもの、普通索道は雨風をしのげるものです。特殊索道は、年に一回しか動かないようなリフトを含め全国に3,000~4,000ぐらいあるのかな? ですから、そこまで全部網羅するのは非現実的なので、そうではない普通索道を全部乗ったと認識していただけるといいかと思います。

情報が少ないからこそ、ハマる楽しみがある!ロープウェイの魅力3選
ロープウェイに乗ることを目的にしている人は、本当にもう自分も含めて少数派です。鉄道ファンはすごく多いけど、ロープウェイファンとなると全国に何人いるのかなって思うくらい(笑)。ロープウェイファンのすそ野が広くないんですよね。
ネットなどに出てくる情報も、鉄道に比べて桁違いに少ないです。私自身、ロープウェイに乗りに行って「え? どこにもそんな情報は出てなかったよ」と思うことが山ほどありますから(笑)。鉄道は、新しい路線や搬器ができると、自分が乗りに行く前にありとあらゆる情報が出ますが、ロープウェイはそんなことありません。なかなかネットなどで情報をピックアップしにくいので、自分で足を運んで実体験して初めて「あ、そうなんだ」とわかることが多い。だからこそ、ハマる楽しみがあって面白いんですよ。

1. 乗る者を魅了する、風景の劇的な変化
実際に乗る体験を通じてハマるのが、山の素晴らしい眺望です。地面の上に敷かれた線路を走る鉄道とは違い、ロープに宙吊りで進むロープウェイの眺望は、まさに絶景。しかも、進むにつれて風景が劇的に変化していく様子は圧巻です。
今森林限界を越えたとか、ここから樹木の種類が変わったとか、景色がどんどん変わります。標高差1,000mくらいある路線なら、山麓駅ではまだ紅葉が始まってないのに、中間あたりで紅葉の絶頂期、山頂駅に着いたらすでに紅葉は終わって雪がチラついてることもありますし。ですので紅葉に関しては、同じ路線で1ヶ月以上とことん楽しめるのではないでしょうか。また、秋の紅葉だけに限らず、春の桜、夏の新緑、冬の雪景色など、四季それぞれの風景が魅了してくれるのです。
鉄道は山にぶち当たるとトンネルに入りますからね。景色が劇的に変化するのは、ロープウェイに乗って感じる最大の魅力だと思います。

2. 風景を楽しむには、後ろに陣取って下を見るべし
そんな絶景を楽しむためには、どこに乗るのがベストか。答えはズバリ下側、上りの時は後ろ、下りの時は前です。鉄道で先頭車両の一番前にかぶりつくのと同じように、ロープウェイでも上り下り関係なく前に陣取っている人たちをよく見かけます。ただ、後ろから下を見ていた方が間違いなく楽しいです。
特に、未知の世界に飛び込んでいく上りの時は、絶対に後ろ。そこから下を眺めていると、だんだん標高を稼いでいくにつれて眼下に広がる風景が劇的に変わっていくのが分かりますから。
また、山の自然風景だけでなく夜景もまた同じです。上を見ていても、つまらないので。やっぱり、下を見るのがロープウェイの鉄則だと思いますね。

3. 構造上の特性を知れば、揺れや振動のスリルも楽しい!?
「絶景を眺められるのはいいけど、揺れたりするのが苦手」という人も、決して少なくないですよね。実際、乗っている時に、風の影響で大なり小なり揺れを感じることはあります。ロープウェイは、雪や雨にはめっぽう強いんですが、風や雷、とりわけ風には弱い乗り物。強風時の運休は、ロープウェイの世界では当たり前のことです。ただ、運休の理由は、単純に強風で大きく揺れるからではありません。揺れた車体が、支柱に激突する事故を避けるために減速や運休が行われるわけです。逆に、駅と駅の間に支柱が1つもない路線は、割りと風に強いと言えます。60度くらいまで揺れてもロープから外れることは基本的にありません。よほど恐怖を感じるような揺れが起こる風の時は、そもそも運休で乗れないですからね。

さらに言うと、多くの人たちがロープウェイで感じるスリルは、揺れよりも支柱を通過する時の振動だと思います。経験上、車内で「キャッ」と声が上がるのは、横揺れ時ではなく支柱の通過時。あの「ガタガタガタ」っていう振動が起こる時ですね。上りはそれほどでもなくても、下りは振動の後にストーンと落下するような感覚なので、より一段と声が上がりますよね。でも、そういった構造上の特徴を知っておくと、そんなスリルもワクワク楽しめるのではないでしょうか。

ぜひ乗ってみてほしい、推しのロープウェイ11選
「推し」や「オススメ」のロープウェイについてもよく聞かれますが、その度にかなり頭を悩まされるんですよね。なぜなら、どの路線も好きだから(笑)。でも、せっかくなら、私の”好き”と”推し”を前面に押し出したチョイスでご紹介していくことにします。
1.【北海道】 函館ロープウェイ(北海道函館市)
日本三大夜景の中でも一番のドラマチック夜景
北海道では、函館山ロープウェイは外せないでしょう。お目当ては、香港やナポリと並び世界三大夜景の一つに数えられる夜景。私的には、日本三大夜景の中で神戸よりも長崎よりもやっぱり函館が一番だと思っています。北海道の南端に近い付け根部分の湾が独特の地形で、かつ函館山が海に突き出したところにあるので、夜景が実にドラマチックです。

2.【東北】 蔵王ロープウェイ(山形県山形市)
フニテル方式や厳冬期の樹氷に注目
蔵王の山に架けられた4路線のうち、蔵王山麓駅と樹氷高原駅を結ぶ山麓線、樹氷高原駅と地蔵山頂駅を結ぶ山頂線からなる蔵王ロープウェイ。山頂線は、搬器の幅より広く張られた2本のロープに鹿の角のような装置で掴まる、フニテルと呼ばれる方式です。これにより、山岳地の厳しい気象環境の中でも極めて高い安定性を誇っています。厳冬期の地蔵山西斜面にできる樹氷は、大きな見どころ。ライトアップによる夜間鑑賞会も人気です。

3.【東北】 八甲田ロープウェー(青森県県青森市)
四季折々に異なる素晴らしい景色がお出迎え
春夏秋冬どの季節に行っても、素晴らしい景色が見られる八甲田ロープウェー。有名な秋の紅葉や冬の樹氷はもちろんですし、夏の新緑もまた見事です。もともと風が強いことと、風が通り抜ける場所に支柱があることなどから若干運休率が高く、行っても動いてないことも少なくないのですが、それを差し引いてもぜひおススメしたいロープウェイの1つですね。

4.【関東】 よみうりランド スカイシャトル(神奈川県川崎市)
都道府県境をまたぐ日本唯一の普通索道
ロープウェイの数が関東は多いため難しいんですが、よみうりランドのスカイシャトルをお勧めします。その魅力は、起伏に富んだ路線。山麓の京王口ステイションを出てすぐ急に登り、読売ジャイアンツの練習場の真上を通って少しずつ下りながらジェットコースターなどの間を縫って終点の山頂ステイションに着きます。また、山麓駅は東京都稲城市、山頂駅は神奈川県川崎市で、都道府県境をまたぐ普通索道としては日本唯一です。乗りながら、こういう蘊蓄を披露するのも面白いんじゃないでしょうか(笑)。

5.【中部】 新穂高ロープウェイ(岐阜県高山市)
日本で唯一の2階建てロープウェイ
中部ではまず、新穂高ロープウェイですね。山麓側から第1ロープウェイ・第2ロープウェイを乗り継いで山頂に達する全長3,171mのロング路線で、合計の標高差は1,000mを超えます。山岳地帯の美しい眺望に加え、個性的な搬器も見どころ。第1は全面ガラス張りのスケルトンタイプで、第2は国内唯一の2階建てとなっています。1階でも2階でも同じ風景が楽しめますが、せっかくなら2階に乗りたくなりますよね(笑)。

6.【中部】 苗場ー田代ゴンドラ(ドラゴンドラ)(新潟県南魚沼郡湯沢町)
国内最長の路線距離を誇る普通索道
そして、中部でのもう一つの推しは、苗場ー田代ゴンドラです。苗場スキー場とかぐらスキー場の田代エリアを結ぶ路線は全長5,481mで、国内最長を誇っています。アップダウンが激しく起伏に富んでおり、特に苗場側から14基目の支柱付近は急な上りから一転して下りになり、ストンと落ちるようでスリル満点。もちろん眺望も素晴らしく、秋の紅葉シーズンは目を見張るような美しい風景に包まれます。ちなみに、「ドラゴンドラ」の愛称を松任谷由実さんが命名したという話は都市伝説で、事実ではありませんのでご注意ください。

7.【北陸】 立山ロープウェイ(富山県中新川郡立山町)
真上だけでなくワイドに広がる立体パノラマ絵巻
意外と観光ロープウェイが少ない北陸で、群を抜いた存在感を放っているのが立山ロープウェイです。立山連峰を貫く立山黒部アルペンルートの一部を構成しており、雄大な山岳風景が広がる眺望は圧巻の一言。山と山の間の深い谷に路線が設けられているため、山麓駅と山頂駅の間に支柱が1基もないワンスパン方式で国内最長を誇っています。支柱がないということは、視界を遮るものも通過時の振動もないということ。存分に眺望を楽しめます。

8.【関西】神戸布引ロープウェイ(兵庫県神戸市)
海と山が近い神戸独特の眺望と、国内屈指の夜景
関西もいろいろ悩ましいのですが、神戸布引ロープウェイを推しましょう。全長1,460m、高低差330mと、決してスケールは大きくありませんが、海と山が近い神戸独特の眺望が魅力です。劇的に風景が変化するというロープウェイの醍醐味を、身近に体験できる名路線だと思います。そして、神戸といえば夜景。もちろん夜間も運行されているので、日本三大夜景に名を連ねる絶景を目当てに乗るのもおすすめです。ちなみに、山麓駅は山陽新幹線新神戸駅から徒歩約5分の好アクセス。新幹線の駅から徒歩圏内の路線は、ここを含め日本で2つのみです。

9.【中国】 千光寺山ロープウェイ(広島県尾道市)
旅情と郷愁を感じる、素朴なロープウェイ
中国地方には、宮島ロープウエーや岩国城ロープウエーなど推したい路線がいろいろある中で、個人的な”好き”レベルで決めるなら千光寺山ロープウェイですね。何と言えばいいのか難しいんですが、洗練されていないというか、オシャレ過ぎないというか、素朴というか……。そういうところに旅情や郷愁を感じて、好きでたまらないですね。景色は本当に綺麗で、上まで行くと素晴らしい眺望が待っています。尾道の町並みや、多くの船が行き交う尾道水道、瀬戸内の島々、さらに、晴れていれば四国まで見渡せます。
瀬戸内ならではの風景に旅情を掻き立てられる。

10.【四国】雲辺寺ロープウェイ(香川県観音寺市)
壮大なスケールを誇る、西日本ロープウェイの雄
四国もまた、素晴らしいロープウェイ揃いで悩みますが、雲辺寺ロープウェイをお勧めします。推しポイントは、とにかく壮大なスケールでしょうか。まずは、路線の全長が2,594mで西日本最長。そして、3基ある支柱のうち2号支柱と3号支柱の間隔が1,882mで、国内最長の支柱間距離を誇っているんです。山頂には、四国霊場八十八ヶ所のうち最も標高が高い第66番札所の雲辺寺があり、多くのお遍路さんで賑わっています。ロープウェイができるまでは、お遍路さんにとって難所だったんでしょう。

11.【九州】 別府ロープウェイ(大分県別府市)
九州では貴重な厳冬期の霧氷が見どころ
沖縄にロープウェイはなく、九州にも4つのみと少なく寂しい中から、別府ロープウェイを推します。全長は1,816mで、高低差が793m。この高低差は、国内のロープウェイで4番目です。見どころは、山頂駅付近に現れる冬の霧氷。温暖化の影響からか、真冬の厳寒期3カ月間で数日くらいしか見られなくなってしまったようですが、九州では珍しい霧氷が見られる希少な路線です。

まとめ
乗る体験の先に驚きや発見、感動が待っている!
一般の鉄道に比べ極端に情報量が少ないロープウェイは、乗ってみないと分からないことがたくさん。中島さんのように乗り尽くすことは難しくても、まずは身近な場所や旅先で乗ってみることがロープウェイを楽しむ一番の近道だ。次の旅では、ロープウェイをプランに盛り込んでみてはどうだろう?きっと、新しい驚きや発見、感動が待っているはず。