大阪・関西万博 開催3ヵ月前最新レポート
2025年4月13日から開催される大阪・関西万博。開催まで残すところ約3ヵ月となった会場の最新状況が報道公開された。最新の状況をお届けする。
地下鉄の新駅「夢洲駅」から望む東ゲート
大阪・関西万博の開幕に先んじて2025年1月19日に延伸開業する大阪メトロ中央線の「夢洲駅」の地上出口部分を出ると、正面には「EXPO2025 OSAKA KANSAI JAPAN」の文字が目に飛び込んで来る。これが、万博会場の東ゲートだ。これが見えて来ると期待感に誰もが歩みを早めるに違いない。
建設が進む8つのシグネチャーパビリオン
会場の中央に位置する「シグネチャーパビリオン」は、各界で活躍する8人のプロデューサーが主導する展示パビリオンだ。万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するために、訪れる人が「いのち」について考え、その概念をアップデートするための体験ができる展示という点が、8つのシグネチャーパビリオンに共通している。担当テーマ、館名、担当プロデューサーは以下のとおり。
テーマ | 館名 | 担当プロデューサー |
---|---|---|
いのちを知る | いのち動的平衡館 | 生物学者 福岡伸一氏 |
いのちを育む | いのちをめぐる冒険 | アニメーション監督・メカニックデザイナー・ビジョンクリエーター 河森正治氏 |
いのちを守る | Dialogue Theater~いのちのあかし~ | 映画作家 河瀨直美氏 |
いのちをつむぐ | EARTH MART | 放送作家・京都芸術大学副学長 小山薫堂氏 |
いのちを拡げる | いのちの未来 | 大阪大学教授・ATR石黒浩特別研究所客員所長 石黒浩氏 |
いのちを高める | いのちの遊び場 クラゲ館 | 音楽家・数学研究者・STEAM教育家 中島さち子氏 |
いのちを磨く | null2 | メディアアーティスト 落合陽一氏 |
いのちを響き合わせる | Better Co-Being | 慶応義塾大学教授 宮田裕章氏 |
ひとつの生命体のような外観のものから幾何学的な形状のものまで、ユニークな建物がシグネチャーパビリオンには集合している。外観を眺めていると、館内に足を踏み入れる前にすでに展示は始まっていることに気づく。完成後は、各館が発信するメッセージを外観と館内の展示両方から存分に感じられるはずだ。
壮大かつ根源的なテーマを体感できる「いのち動的平衡館(福岡館)」へ
シグネチャーパビリオンのうちのひとつ「いのち動的平衡館」を訪れた。曲線で構成されている外観は、まるで生物のようだ。ここは、生物学者である福岡伸一氏プロデュースのパビリオンで、「いのちとは何か」という根源的な問いについてひとつの考え方を示してくれる。私たちと環境の間には、実は明確な境界線はなく、私たちを構成している原子や分子は絶えず環境との間で交換されているという。38億年前に奇跡的に生まれたいのちは、たったひとつの細胞から出発した大きな流れのなかにあり、未来に続いている。絶え間なく動き、入れ替わりながらも全体として恒常性が保たれていることを「動的平衡」という。聞きなじみのない難しい単語だが、これを体感的に知ることができるのが「いのち動的平衡館」の展示だ。
波打つような膜屋根が特徴のパビリオンに足を踏み入れると柱が一本もないことに気づく。この構造体は、曲線を描く鉄骨をケーブルで引っ張り、その張力で支えているという。建設時は、網のように張り巡らされたケーブルの各地点に測定器を付け、正しく張力が働いているかを測定し、調整したという。「こっちと締めると、あっちが緩み、あっちを締めるとこっちが緩み……、という大変な作業を繰り返しました。しかし、バランスが取れた瞬間にすべて均一に力が働く状態となりました」と、福岡氏は語る。このバランスについても、まさに「生命的である」という。
動的平衡のコンセプトを、光の粒子を使って立体的に表現する。これを実現する展示システム「クラスラ」は新たに設計・開発された。32万個の繊細な光の粒子が明滅しながら展開する直径10m、全周30mの立体的なシアターシステムが見せてくれる唯一無二の世界観が楽しみだ。
「残念石トイレ(トイレ2)」から学べること
会場内のトイレにも注目したい。最大で高さ3m、重さ13トンの巨石を柱に活用したトイレは、3人の若手建築家チームによって建てられた。巨石は、「残念石」と呼ばれているが、その起源は約400年前の江戸時代に遡る。初代大坂城が1615年に焼失した後、再建するために石垣用に切り出されたのがこの石だ。しかし、さまざまな事情から結果として使われなかった「残念な石」が、「残念石」である。京都府木津川市に残されていたそんな「残念石」を再び大阪に持って来ようと始まったプロジェクトなのだ。「石をきっかけに日本の歴史や石工の技術に関心を持ってもらえるような万博になればうれしい」と話してくれたのは、建築家チームのひとり竹村優里佳氏だ。「1970年の大阪万博では、展示されていた月の石を目当てに来た方も多かったそうです。まだ、目に見えない輝かしい未来に向かっていくという希望があったのではないかと思います。2025年の万博では、私たちの身近にある石など地域資源にフォーカスして、より自分たちの近くにある価値に気づいていける万博になればと考えています」竹村氏は、歴史を知り、未来に向けて人間と自然がともにある世界を目指すことこそが万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」に繋がると説明する。自然が生み出した巨石のスケールと、それを400年前に山から切り出した人間の力を、この「残念石トイレ(トイレ2)」の建築を通して感じてみよう。
着々と工事が進む個性豊かな海外パビリオン
建設が進む「オランダパビリオン」と「韓国パビリオン」を訪れた。オランダのコンセプトは「コモングラウンド(Common Ground)」。共に分かち合い、共に新しい価値を生み出すことを意味する言葉だ。社会や地球が直面する多くの課題に対して積極的に解決に乗り出していく事の重要性を発信するという。水から生成されるクリーンエネルギーを波打つ曲線を使い壁面に表現。目を引く直径11mの球体は、無限のクリーンエネルギーと日の出を表している。なお、建物の上部は鏡状になっており、空が映るようになる。これらを構成する資材は、万博終了後、すべて再活用されるという。
「韓国パビリオン」は、巨大なディスプレイ(縦10m、横27m)が壁面に設置され、ひと際その存在感を放っている。韓国パビリオンのテーマは「With Hearts」。館内は、全3館で構成され、AI技術を活用した音楽や、エコ技術の体験、映像を通して未来の社会を感じられる展示となる予定だ。1970年の万博開催時と比較して大きく成長を遂げた韓国の姿を世界に向けて発信していく。
世界最大級の木造建築「大屋根リング」を歩く
大阪・関西万博のシンボルとなる建築物が一周約2kmの「大屋根リング」だ。会場のどこにいてもその存在が目に入ってくる。「多様でありながら、ひとつ」という万博の理念を表している大屋根リングは、世界最大級の木造建築物となる。
まとめ
大阪・関西万博は開幕に向けて着々と建設が進んでおり、大屋根の上からはユニークなパビリオンの数々が顔を覗かせている。全貌が明らかになる開幕が待ち遠しくなる。「いのち」をテーマとした初めての万博は、一人ひとりが「いのち」と向き合うきっかけとなる体験が用意されている。出展する国・地域がこのテーマについてどのような取り組みや未来の姿を表現するかも、万博を通して世界を知るきっかけになるはずだ。2025年4月13日から10月13日まで、184日間だけの特別な体験を2025年の訪問先リストに加えてみてはいかがだろう。