東京の下町で江戸時代から続く料亭文化を体感。芸者と巡る風光明媚な向島ツアー

東京の下町で江戸時代から続く料亭文化を体感。芸者と巡る風光明媚な向島ツアー

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筆者 : GOOD LUCK TRIP

観光客で賑わう浅草浅草寺、そして東京スカイツリー®︎からも近く江戸から昭和の風情を感じられる向島は、東京の中でもノスタルジックな雰囲気を醸している地域だ。
風光明媚な景色が見られるスポットであるだけでなく、下町の情緒が感じられる文化や職人たちの伝統の技に触れることができる。
なかでも会席料理とお座敷遊びができる料亭体験は、日本が誇る最高のおもてなしに出会えるとっておきの場所だ。
今回はそんな花街・向島の紹介とともに、その魅力を最大限に堪能できるツアーを紹介していきたい。

東京都墨田区にある「向島」エリアとは?

東京都墨田区の中西部に位置し、西側に隅田川が流れている向島。
江戸時代(1603〜1868)から料亭街が置かれて栄えたこの土地は、繁華街であった浅草側から見て、隅田川の向こうにある島のように見えたことから向島と呼ばれるようになったといわれている。

「長命寺」付近から隅田川下流を描いた作品
東京都立図書館デジタルアーカイブ 「長命寺」付近から隅田川下流を描いた作品

初代・歌川広重「江都名所 隅田川はな盛」東京都立中央図書館所蔵

四代将軍・徳川家綱が「木母寺」周辺に桜を植えたのが墨堤の桜の始まり。
1717年には八代将軍・徳川吉宗が庶民の行楽地とするために、隅田川の土手に本格的な桜の植樹が行われた。
その後も地元の人々などにより植樹は続けられ、江戸でいちばんともいわれる桜の名所として、文人墨客が集うおしゃれで粋な場所として名を馳せていく。
地理的に浅草寺に近く、また百姓地(田畑)が広がる景勝地であったこと。
また「三囲稲荷社(現・三囲神社)」や「秋葉大権現社(現・秋葉神社)」などの神社への参拝者でも賑わっていたようだ。

「三囲稲荷社」などの記述が残る向島の古地図
国立国会図書館デジタルコレクション 「三囲稲荷社」などの記述が残る向島の古地図

『隅田川向嶋絵図』国立国会図書館デジタルコレクション
景山致恭,戸松昌訓,井山能知//編『〔江戸切絵図〕』隅田川向島絵図,尾張屋清七,嘉永2-文久2(1849-1862)刊.
(参照 2024-12-08)

現在の墨堤の桜
現在の墨堤の桜
お稲荷様で知られる「三囲神社」
お稲荷様で知られる「三囲神社」
 火伏せの神を祀る「秋葉神社」
火伏せの神を祀る「秋葉神社」

1804年になると、骨董商の佐原鞠塢(さはらきくう)が梅やすすきなどの日本古来の草木を集め、幕臣の多賀家屋敷跡に「向島百花園」を造園。
当初は360本の梅が主体で、300本物梅の木が植えられすでに梅の名所として知られていた呉服商・伊勢屋彦右衛門の別荘「清香庵」(別名・亀戸梅屋敷)に対して、「新梅屋敷」とも呼ばれていたようだ。
その後、日本の古典で詠まれている有名な植物を集め、四季を通して花や植物が楽しめるように。
都営庭園となり、国の史跡・名称に指定されている。

江戸時代の頃の「向島百花園」の風景
国立国会図書館デジタルコレクション 江戸時代の頃の「向島百花園」の風景

二代目・歌川広重『東都三十六景 向しま花屋敷七草』,相ト. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2024-12-08)

「向島百花園」の梅
「向島百花園」の梅

東京最大規模の花街(料亭街)・向島

松尾芭蕉の登場によって俳諧や連歌などの会席が料理茶屋で開かれるようになった江戸時代中期(1681〜1780)以降、舞踊や邦楽で宴席に興を添えて、客を芸でもてなす女性の職業の形ができ、誕生したのが芸者だ。
江戸時代より料亭があった風光明媚な地として栄えた向島は、明治時代(1868〜1912年)に入ると見番が置かれ、それが花街の起源となる。
見番の始まりは諸説あり、一説では1875年に水神の「植半」という料理屋の女将・坂田キクが開業したといわれているようだ。
開業当時は「葉ざくら芸妓」という呼称で呼ばれ、「わかさや」の小歌という帝都名物錦絵にも描かれるほど、向島を代表する芸者が出現。

代表芸者といわれている「わかさや」の小歌の肖像画
東京都立図書館デジタルアーカイブ 代表芸者といわれている「わかさや」の小歌の肖像画

梅素薫案「東京じまんめいぶつ会」「竹本津賀太夫」「ビラ辰」「こと問亭 外山新七 だんご」「向じま わかさや小歌 山崎とよ」「見立模様角田川そめ」(1986)東京都立図書館所蔵

そうして、1940年に花街・向島は最盛期を迎える。
料亭・料理屋が215軒、置屋は408件、所属する芸者は約1300名になったともいわれ、多くの文人墨客に愛され、浮世絵や小説、芝居の舞台として向島が登場するように。
しかし戦時中の「東京大空襲」によって大きな被害を受け、1986年に複数の見番がひとつに統合される形で「向嶋墨堤組合」として再編成された。

向島の料亭街の風景
向島の料亭街の風景

花街・向島では和食、特に会席料理を提供し、芸者衆を呼んだ宴の席が許可されている料亭と、所属する芸者や半玉らに女将が生活全般の教育を施す置屋、料亭や置屋間の連絡や芸者の派遣を行う見番の3つの役割で究極のおもてなしが作り上げられている。
現在は「入舟」「きよし」「櫻茶ヤ」「すみ多」「千穂」「千代田」「月笛」「道成寺」「波むら」「ふ多葉」「桃福」の11の料亭。
そして芸者を料亭へ送り出す置屋が45あり、芸者80名を抱えながら見習いである半玉らへの伝統・文化を継承することにも力を入れている。
東京にある「新橋(銀座)」「赤坂」「芳町(日本橋人形町)」「神楽坂」「浅草」「向島」の6つの花街の中で、在籍する芸者数が多い花街としても知られているのが向島だ。

月夜に映える着物や流れる三味線の音色と長歌の声が漂う向島。
時代や人、風景が移ろいながらも、日常から離れ静寂に包まれた不思議な陰影に包まれ、今も独特の風情を漂わせている地域である。

浅草側から見た、隅田川越しの向島方面の景色
浅草側から見た、隅田川越しの向島方面の景色

この記事では、そんな向島を堪能できる4つのツアーを紹介していきたい。

1. 向島料亭で季節の料理とお座敷遊び「料亭体験(通訳ガイド付き)」

花街・向島に隠れ家のようにたたずむ「料亭 ふ多葉」は、四季に彩られた会席料理と芸者の歌と踊りで、江戸情緒にあふれた最高級のおもてなしを体験できる料亭だ。
四季折々の素材を活かして料理人たちが心を込めた逸品が提供される。
季節の料理に舌鼓を打ちながら、磨き抜かれた芸を堪能しよう。

19:00 「料亭 ふ多葉」で日本の食文化を体験

まずは日本家屋の料亭「料亭 ふ多葉」の座敷で、季節の食材を使った本格的な会席料理をいただこう。
和洋を取り入れた料理の数々は、目にもうれしい華やかさだ。
旬の野菜や鮮魚、温かな椀物から新鮮なフルーツまで、バラエティ豊かなメニューが宴席を彩る食事によってビールや日本酒も進んでいく。
芸者さんからのお酌を受けながら旅の感想を語りながら、芸者文化について教えてもらうなど、非日常的ながらも心地のよいおもてなしを堪能しよう。

趣ある提灯が「ふ多葉」の目印
趣ある提灯が「ふ多葉」の目印
広間での宴席は10名以上の大人数でも利用可能
広間での宴席は10名以上の大人数でも利用可能
芸者さんとのお酌や会話も料亭ならではの醍醐味
芸者さんとのお酌や会話も料亭ならではの醍醐味
旬の食材による懐石料理はどれも贅沢な味わいだ
旬の食材による懐石料理はどれも贅沢な味わいだ
料理人が丹精込めた逸品で五感を楽しませてくれる
料理人が丹精込めた逸品で五感を楽しませてくれる
食文化の違いについての話も盛り上がる
食文化の違いについての話も盛り上がる

19:45 芸者衆による唄や踊りを堪能する

宴席が盛り上がるにつれ、唄や踊りがさらに華やぎを加える。
まずは三味線の音色にのせた唄の披露から。
長唄をアレンジした「越後獅子」や、乙女心を描いた「萩桔梗」、隅田川の夕涼みを唄い上げた「夕暮れ」など、日本の花街文化に根ざした演目に心が奪われるひとときだ。

三味線と唄の披露
三味線と唄の披露
芸者衆による演奏。所作の美しさも見どころ
芸者衆による演奏。所作の美しさも見どころ
演奏や舞を間近で楽しめるのはお座敷ならでは
演奏や舞を間近で楽しめるのはお座敷ならでは

お座敷歌の王道である江戸時代後期(1781〜1867)から明治時代(1868〜1912年)にかけて流行した江戸端唄「奴さん」や、遊里で三味線や太鼓ではやしたてて歌うにぎやかな「騒ぎ唄」に合わせ、芸者衆が披露する演奏と舞。
間近で見る日々の鍛錬の成果に引き込まれながらも、食事やお酒、会話とともにリラックスして楽しめるのも魅力である。

20:45頃 お座敷遊びを間近で体験

参加型のお座敷遊びも楽しみのひとつだ。
芸者と向き合い膳の上にお椀のような道具を置き、歌いながら反射神経を競う「金比羅船々」や、和唐内(槍で突く格好)、虎(四つん這い)、おばあさん(杖をつく格好)のポーズをとって体でジャンケンする「とらとら」。
さらには鼓を使った「おまわりさん」や、お酒をこぼさないように注ぐ「表面張力」などバリエーションも豊富にある。
ゲームの勝敗に応じてお酒を飲む場面もあり、和やかに場が盛り上がっていった。

お座敷遊びも芸者さんたちがサポートしてくれるので安心
お座敷遊びも芸者さんたちがサポートしてくれるので安心
初めての体験に思わず笑顔があふれる
初めての体験に思わず笑顔があふれる
あっというまに3時間が過ぎ、最後に記念写真を
あっというまに3時間が過ぎ、最後に記念写真を

2. 芸者の鍛錬や伝統継承に触れる「稽古見学と料亭体験(通訳ガイド付き)」

「見番」は、料亭への芸者の手配だけでなく稽古場としても使われている施設だ。
芸者は邦楽を介して学ぶ作法も重要だが、「呼吸」「間」「情緒」「粋」を音曲の調べとともに表現する伝統技能を身につけなければならない。
浄瑠璃、器楽が主な演練演目としてあり、これらひとつを芸として昇華するためには、日々の鍛錬が必要不可欠だ。
本ツアーでは特別に通常では一般客が決して足を踏み入れることができない、芸者衆の稽古見学ができるほか、器楽の中でしめ太鼓などの演奏体験ができる。
女将からの花街文化のレクチャーから始まり、鳴り物(太鼓)の師匠からの鳴り物の種類や演奏方法を伺い、その後は半玉さんの稽古風景の見学を。
日本の伝統芸能の奥深さや、技術を磨く鍛錬の様子を間近で見学した後には、ツアー参加者の演奏体験も行われる。

提灯が並ぶ見番の入り口
提灯が並ぶ見番の入り口
稽古時間中の見番
稽古時間中の見番
半玉と呼ばれる芸者の見習いが鳴り物の稽古をする姿
半玉と呼ばれる芸者の見習いが鳴り物の稽古をする姿
見番のことや料亭、芸者と半玉の違いなどが語られる
見番のことや料亭、芸者と半玉の違いなどが語られる
鳴り物の師匠の実演も
鳴り物の師匠の実演も
鳴り物の師匠のレクチャーを受けながら鳴り物の演奏体験
鳴り物の師匠のレクチャーを受けながら鳴り物の演奏体験

その後は料亭へと場所を移し、艶やかな芸者さんたちの本息の歌や舞を堪能する「料亭体験(通訳ガイド付き)」へ。

ツアースケジュール

  • 17:30 見番集合
  • 17:45 稽古見学
  • 18:10 演奏体験
  • 18:25 芸者さんと記念撮影・歓談
  • 18:40 見番出発
  • 21:30 料亭で日本食文化・芸者さんによる歌舞音曲を体験

<向島料亭で季節の料理に舌鼓「料亭体験(通訳ガイド付き)」参照>

3. 下町の名所を巡る「人力車でのまち巡りと料亭体験(通訳ガイド付き)」

風光明媚な古き時代の面影と東京スカイツリー®︎などの洗練された都会の街並みが交差する景色や、隅田川の四季折々の美しさをレクチャーされながら名所を巡る、力車体験もおすすめだ。
人力車の老舗「時代屋」を出発し、助六夢通り(スカイツリー展望広場)や言問橋などの東京スカイツリー®︎が映えるスポットなどに立ち寄り。
最終地点の向島の料亭まで、30分ほど人力車での移動が楽しめる。
車夫から聞ける浅草の歴史や隠れた名所、おすすめスポットも、旅を一層楽しませてくれるポイントだ。

重厚感ある人力車は座るだけでも気分が高まる
重厚感ある人力車は座るだけでも気分が高まる
時代屋・明治館は雷門のすぐそば
時代屋・明治館は雷門のすぐそば
レトロな待合室でのひとときもよき思い出
レトロな待合室でのひとときもよき思い出
助六夢通り(スカイツリー展望広場)でのショット
助六夢通り(スカイツリー展望広場)でのショット
言問橋と東京スカイツリー®︎
言問橋と東京スカイツリー®︎

料亭入口まで人力車で移動した後は、艶やかな芸者さんたちの本息の歌や舞を堪能する「料亭体験(通訳ガイド付き)」へ。

4. 芸者さんと向島花街をそぞろ歩き[所要時間:1時間]

風情ある向島の街を着物姿の芸者さんとともにゆったりと歩いて巡るツアーは、非日常を最大限に楽しめるといっても過言ではないだろう。
芸者さんたちが江戸時代から現代へとタイムスリップしてきたかのような不思議さを醸す景色は一見の価値ありだ。
春には桜が咲き誇る並木などの隅田川沿いの景色と共に楽しめるのも一興。
非日常を味わえるひとときをじっくりお楽しみあれ。

夜の街灯が美しく水面に映る
夜の街灯が美しく水面に映る
ライトアップされた桜橋
ライトアップされた桜橋
芸者さんの日常が垣間見える特別な時間
芸者さんの日常が垣間見える特別な時間

ツアーを楽しんだあとは向島でのナイトライフを満喫!

「金むら」は創業10年を迎えた端正な造りの向島にあるお座敷バー。
個室で座敷を楽しむこともできるが、せっかくなら常連客らと混ざりカウンター席でにぎやかに過ごしてみるのがいいだろう。
向島を知り尽くした店主との会話で、また違った向島の一面を知ることができる。
地元の常連客らとの気さくな会話とカラオケで盛り上がりながら、向島での夜を楽しもう。

閑静な住宅街にたたずむ「向島 金むら」
閑静な住宅街にたたずむ「向島 金むら」
落ち着いた雰囲気のカウンターを囲んで
落ち着いた雰囲気のカウンターを囲んで
お酒と軽食をつまみながらの会話も弾む
お酒と軽食をつまみながらの会話も弾む
カラオケで盛り上がるのもバーのお楽しみ
カラオケで盛り上がるのもバーのお楽しみ

まとめ

料亭での色彩豊かな懐石料理とお座敷遊び、人力車で街を移動しながら東京スカイツリー®︎をはじめとする観光名所巡りなど、どのツアーを選んでも向島に息づく江戸の情緒を体験する特別な一日となること間違いなしだ。
せっかく日本に訪れるなら、タイムスリップしたかのような錯覚を覚える、風光明媚な向島の風景や文化を余すところなく体験してほしい。

※本事業は東京都、東京観光財団のナイトタイム等における観光促進助成金を活用しています。