
日光東照宮を観光するなら知っておきたいうんちく13選
「日光東照宮」は、戦国乱世を終結させた偉大な英雄・徳川家康(とくがわいえやす)を祀る霊験あらたかなパワースポットだ。
知名度は高いが、豪華絢爛な建築群、徳川家康の偉業以外について詳しい人は多くないだろう。
実はとても奥が深く、様々なところに伝承・信仰・技術といった魅力が詰まっている。
この記事では、日光東照宮を観光予定の方に向けて、知っておくとより楽しめるうんちくと豆知識を紹介していく。
歴史的背景や建築様式など、現地で確認・話したくなるような面白い内容をまとめたので、ぜひ最後まで読んでほしい。
日光東照宮の成り立ち・歴史に関する3つのうんちく
まずは、日光東照宮の成り立ち、歴史に関するうんちくと豆知識を紹介していく。
日光東照宮という存在は知っていても、創建当社の姿や世界遺産に登録された理由までわかる人は少ないだろう。
これらを頭に入れておけば、また違った見方ができて観光時の楽しみが増えるはずだ。
1. 日光東照宮は徳川家康を祀る神社
日光東照宮は、徳川家康を神格化した「東照大権現」を主祭神に祀る東照宮の総本社的存在。
成り立ちは徳川家康が死の直前に残した「遺体を久能山に葬り、一周忌を過ぎてから日光山に小堂を建てて祀れ」という遺言に由来する。
遺言の通り、徳川家康が亡くなった1616年に久能山(静岡)、翌1617年に日光の小規模な廟所「東照社」に祀られた。
その後、1645年に朝廷より宮号が授与され「東照宮」へ改称した。
ちなみに、東照は”日本を東方から照らす”、権現は神仏習合の思想に基づき”仏が神の姿で現れるという観念”を示す。
現在は社殿「奥社」の敷地内、「御宝塔(徳川家康の墓所)」に安置されているので、観光時は奥社まで行くのがお勧め。

2. 建設当初の簡素な神社から約100万両かけて豪華絢爛な姿へ
2代将軍・徳川秀忠(とくがわひでただ)が創建した東照宮(日光東照宮)は、父の遺言通り小規模で簡素なものであった。
今のように豪華絢爛な意匠の多くは、3代将軍・徳川家光(とくがわいえみつ)が命じた「寛永の大造替」で作られている。
祖父への尊敬の念が強かった家光は、日光東照宮を荘厳な霊廟とするために大造替を決断。
1634年に着工後、主要建築物の全面改築を行い、1636年(徳川家康の21回忌)に完成させた。
これにより、日光東照宮は徳川家康の威信を示すとともに、江戸幕府の権威を象徴する社殿に生まれ変わった。
驚くべきはその技術と美意識の高さで、根本的な建築形式や装飾は現在までほぼ変わらない。
なお、約100万両(現在の約1,000億円)の総工費はすべて幕府が負担し、国家的事業として進められた。

3. 日光東照宮が世界遺産に登録された理由
日光東照宮は、輪王寺・二荒山神社(ふたらさんじんじゃ)とともに、「日光の社寺」名義で1999年に世界文化遺産に登録された。主な評価理由は次の3つ。
- 精緻な彫刻や極彩色の装飾の水準が国際的に見ても極めて高く、当時の最高峰の建築技術と芸術性を示す傑作であること
- 周囲の自然環境と建造物群が見事に調和し、神仏習合の信仰形態を背景とした宗教空間としての完成度が高いこと
- 日光の社寺群に属する103棟の建造物(うち国宝9棟・重要文化財94棟)が良好に保存され、当時の造営技術や宗教・政治の結びつきを伝える体系的な資産群であること
総じて、単なる豪華な建築物ではなく、近代以前の技術・信仰・景観の総体が「普遍的な価値」を持つという評価を受けたと言える。

知れば日光東照宮をもっと楽しめるうんちく10選
続いて、日光東照宮で実際に確かめてほしいうんちくや豆知識を紹介していく。
日光東照宮は、豪華絢爛な建築群や歴史的な価値だけでなく、数々の興味深い逸話、建造物にまつわる信仰など、大小さまざまな見どころが盛りだくさん。
これらを知っておくと楽しみがより一層広がって、最大限に満喫できるだろう。
日光東照宮は建築様式「権現造」の代表格
日光東照宮は、神社・仏閣の建築様式「権現造」の代表格。
権現造とは、本殿と拝殿を「石の間(相の間)」と呼ばれる幣殿でつないだ建築様式で、全体を上から見ると「エ」の字形に見えるのが特徴。
平面上は前方に拝殿、後方に本殿、両者をつなぐ中間部があり、参拝者が拝殿から直接神聖な本殿へと意識が向くような動線になっている。
また、入母屋造や妻入り・庇付きの豪華な造りとなることが多く、向拝・唐破風(からはふ)などの装飾が見栄えを強める。
上述した寛永の大造替による建て替えが権現造の完成形とされ、その後多くの神社建築のモデルとなった。
起源は平安時代(794年〜1185年)だが、権現造という名は「東照大権現」に由来する。

陽明門が“日暮門”と呼ばれる理由
日本で最も美しい門と名高い国宝「陽明門」は、圧倒的な芸術美と文化的な深みから別名“日暮門(ひぐらしのもん)”と呼ばれる。
門には500点を超える彫刻や多数の極彩色、金箔の多用など、江戸初期の工芸技術の総体が凝縮されており、非常に見どころが多い。
訪れた人々が「日が暮れるまで見ていても飽きない」という意味が別名の由来で、徳川家光もその美しさに感嘆したそうだ。
彫刻は仙人・人物・動植物など多岐にわたり、代表的な「千人唐子の知恵遊び」をはじめ、一つひとつに物語・メッセージが込められている。
観察する度に新たな発見があるので、つい時間を忘れて眺め続けてしまう。

日本の思想・美意識を感じられる陽明門の逆柱
陽明門には1本(北側の西から2本目の柱)だけ「逆柱(さかさばしら)」がある。
逆柱は、通常とは上下逆に彫刻された柱のことで、陽明門では渦巻き模様(グリ紋)が逆向きになっている。
これは、完璧なものに「魔が差す」とされる古来の思想に基づく。
あえて不完全な部分を意図的に設置(構造的な問題もない)し、災いを避けるという陰陽道の考え方を反映している。
また、日本独自の美意識「満つれば欠ける(栄華を極めると衰え始める)」から、未完成の要素を加え、建物の永続性・調和を保つ意図もある。

有名な「三猿」は8枚の彫刻の一部
日光東照宮の「三猿(見ざる・言わざる・聞かざる)」は、境内にある「神厩舎(しんきゅうしゃ)」の長押(なげし)に彫られた有名な3匹の猿の彫刻。
それぞれが目・口・耳を手で覆っており、「悪いことは見ない・言わない・聞かない」という道徳的な教訓を示す。
なお、三猿は猿の一生を描いた8枚の彫刻の一部であり、猿の成長過程を表現している。
簡単なストーリーとメッセージは以下の通り。
- 赤子:未来に向けて子供の幸せを願う母親を描き、子供への温かい愛情と希望を表現
- 幼少期:好奇心旺盛な子供を描き、立派な大人へと育つように戒めを表現
- 青年期:独り立ち直前の様子を描き、成長に向けた自立の準備を表現
- 大人:青雲の志を描き、未来を見据える若者の姿を表現
- 挫折と慰め:下を覗き込む様子と背中に手をあてる様子を描き、周囲の励ましや友情の大切さを表現
- 恋愛:恋愛に悩む感情を描き、恋のぎこちなさ・心の成長過程を表現
- 結婚:2人が並んで前を向いた姿を描き、夫婦で困難を乗り越えていく姿を表現
- 妊娠:妊娠した姿を描き、親となり次の世代を育む責任・生命の循環を表現

「眠り猫」に込められた意味とは
奥社への入り口、東回廊にある「眠り猫」は、国宝指定の小さな装飾彫刻。
江戸時代(1603年〜1868年)の名工・左甚五郎(ひだりじんごろう)の作品と伝えられ、猫が眠っている姿は争いや危険のない調和の取れた世界(徳川幕府の安泰)を意味する。
実はいつでも敵に飛びかかれる体勢(意:油断はなく守りは固い)を取っており、角度によって目が開いているように見える。彫刻の背後に掘られた2羽の雀も注目のポイントだ。
通常、天敵関係の猫と雀が戯れる様子から、眠り猫は「平和の象徴」とされている。
このように様々な意味があり、解釈次第で捉え方が変わるのも面白い。

上神庫には想像で描かれたユニークな象の彫刻がある
「想像の象」は、実際に象を見たことがない画家が伝聞や書物だけを頼りに、想像だけで描き下ろした非常に珍しいユニークな彫刻作品。
下絵は絵師・狩野探幽(かのうたんゆう)が下絵を描いたと伝わる。
左右非対称のデザイン・3本の尻尾・マンモスのような体毛・金色の牙など、創造力・芸術性にあふれる誇張が特徴。
独特の造形、非写実性が人々に親しまれ、眠り猫・三猿と並び「日光三彫刻」にも名を連ねる。
想像の象は日光東照宮内の三神庫のひとつで、重要文化財の「上神庫(かみじんこ)」の屋根下(妻面)に彫られている。

龍の鳴き声が聞こえる?薬師堂の「鈴鳴龍」
重要文化財「鈴鳴龍」は、日光東照宮の薬師堂(本地堂)の天井に描かれた巨大な龍の水墨画。
絵の真下で拍子木(木の音具)を打つ(手を叩く)と、天井と床の共鳴で他の場所と明らかに違う長い残響音が返ってくる。
まるで龍が鳴いたように聞こえるため、「鳴き龍」・「鈴鳴龍」と呼んでいる。
ちなみにこの現象は、天井の構造によって生じるフラッターエコー(短時間・高速に反復する反射音が合成されて長く続くように感じられる)によるもの。
音響効果を生かした神秘的な体験ができるので、訪れた時は実際に試してみてほしい。

奥社に位置する願い事が叶うパワースポット「叶杉」
「叶杉(かのうすぎ/かなえすぎ)」は、奥社参道の石段を207段登った先、御宝塔の横に佇む樹齢600年以上の巨大な御神木。
古くより杉にある洞穴に向かって祈ると、”願いが叶う”と信仰されてきたパワースポットだ。
神聖な雰囲気と長寿、徳川家康の加護を象徴する存在として、その名が自然と広まったと考えられている。
現在も願掛けに立ち寄る参拝者が絶えない日光東照宮の代表的なスポットのひとつ。

東日本大震災でも大きな被害を受けなかった「五重塔」
五層の屋根が美しく重なり合う「五重塔」は、日光東照宮の入り口にそびえる高さ約36mの朱塗りの塔。
十二支をモチーフにした精巧な彫刻の宗教的・美術的価値が高く、国の重要文化財にもなっている。
最大の特徴は「懸垂式心柱(しんばしら)」という優れた耐震構造だ。
屋根から宙に吊るされた中央の心柱が振り子のように動いて揺れを吸収・分散し、建物全体の損傷を防ぐ役割を果たす。
東日本大震災(2011年)時も大きな被害を受けなかったほど、精密で安全性が高い。

天気によって色が変わる「照降石」
「照降石(てりふりいし)」は、日光東照宮の石鳥居(一ノ鳥居)へと続く石段の10段目に埋め込まれた長方形の一枚石。
天気を予測できると言われる変わった石で、日光東照宮の七不思議のひとつにも数えられている。
石の表面は斜めに2色に分かれ、右半分(石鳥居に向かって右側)が黒く見えると”雨の兆し”、薄く見える“晴れる可能性が高い”という言い伝えがある。
そのため、参拝者や地元民に「天気占いの石」として人気なスポットだ。

まとめ
日光東照宮で、話したくなる一歩踏み込んだうんちく・豆知識を紹介してきた。
気ままに楽しむのも良いが、歴史的背景や建築に込められた意味まで知っておくと、日光東照宮の持つ文化的・宗教的価値をより深く実感できるだろう。
通常の観光では味わえない感動を得られ、旅行の満足度が高まるはずだ。
訪れた時は友人・家族ともシェアしながら、実際に確かめてほしい。
日光東照宮の基本情報、定番の見どころ、周辺の人気飲食店などをまとめた、こちらの記事も要チェック。