旅人よ、路面電車に乗ろう。愛好家によるガイドとおススメ路線16選

旅人よ、路面電車に乗ろう。愛好家によるガイドとおススメ路線16選

更新 :
筆者 :  GOOD LUCK TRIP
監修 :  岩沼 健児

明治28年(1895)に京都で市電が開業して以来、130年の歴史をもつ日本の路面電車。
時代の流れや社会の変化で廃止になった路線もあるが、今なお全国各地の街で身近な乗り物として活躍中だ。
路面電車愛好家の岩沼健児さんは、「地元の人だけでなく観光で訪れる人にこそ身近に感じてほしい」という。岩沼さんのガイドとおススメ路線を参考に、旅人よ路面電車に乗ろう。

長崎の大学進学をきっかけに路面電車ファンへ

子どもの頃から鉄道が大好きで、もうかれこれ鉄道ファン歴は半世紀以上です。
余談になりますが、黒部峡谷鉄道(富山)と、ゆいレール(沖縄)の延伸区間以外は、全国の鉄道を完乗しました。そんな私が路面電車にハマったきっかけは、長崎大学への進学でした。それまでも東京の下町にある学校へ通っていたので、都電荒川線で路面電車にも馴染みはありましたが、ハマるほどでもなかったんですね。ただ、長崎の街は路面電車がとても身近な存在で、普段生活している空間のすぐ前を走ってたりしていて……。一般的な鉄道とは違う魅力に目覚めてしまいました。とにかくレールが好きなんで、これはもう手を出さずにいられないという感じで(笑)。
そこから路面電車の世界にハマり、全国の路面電車を乗って回りました。「長崎路面電車の会」をはじめ愛好家の団体にも参加して、路面電車ファン活動を続けています。

大学進学先の長崎で路面電車の魅力に目覚めた岩沼健児さん
大学進学先の長崎で路面電車の魅力に目覚めた岩沼健児さん

街の表側を走る路面電車。乗れば街が分かる!?

路面電車の魅力であり、鉄道との大きな違いでもあるのは、走る場所だと思います。
鉄道の線路は、街なかに敷かれていませんよね。しかも、家や店の表側ではなく、洗濯物を干していたり道具をおいていたりする裏側。一方、路面電車の線路は街なかの道路に敷かれていて、家や店の表側を走ります。街の成り立ちや様子が見やすいので、車窓の景色を眺めていれば勝手に街のことを理解できるような感じですね。もちろんスピードもそれほど速くないので、じっくりと街を観察できます。
さらに言えば、街との距離感が非常に近いことも路面電車ならでは。近いというよりもむしろ、街と一体化している感覚です。乗ったことがある人にはお分かりいただけると思いますが、降りればそこは道の上。しかも、街の表側なのですから。

“街の表側”を走るので、街の様子がよく分かる。繁華街もすぐそば
“街の表側”を走るので、街の様子がよく分かる。繁華街もすぐそば

路面電車は観光客に優しい乗り物だ!

街との距離が近いということは地元色も濃いわけですが、観光客の方も気おくれすることなくどんどん乗っていただきたいですね。路面電車は、初めて街を訪れる人にも優しい乗り物だからです。
まず、バスや車と違って線路のある所しか行きませんし、鉄道と違って路線の範囲がコンパクト。もし路線を間違えて端から端まで乗ったとしても、気づかないうちにとんでもなく遠い場所まで連れていかれて取り返しがつかなくなるようなことはないんです。わざわざ端から端まで乗ってみるのも楽しいですよ。
そして、街の表側を見ながら進むので、目的地がどの辺りなのか探しながら見当をつけられます。地下鉄のように、駅は合っているのに出口を間違えて路頭に迷うようなこともないですし(笑)。
さらに、運賃が安くてリーズナブル。区間運賃ではない均一運賃が設定されていたり、乗継割引やフリー切符があったりする場合も多いので、お得に観光を楽しめます。

途中下車が楽しい路面電車は、1日乗車券などが便利でお得
途中下車が楽しい路面電車は、1日乗車券などが便利でお得

路面電車ならではのお気軽観光術

もっと早くお話しておくべきだったかもしれませんが、路面電車ならではの魅力をもう一つ。
道の駅はもちろんバスの停留所と比べても、路面電車の電停は間隔が短いんですよね。少しくらい乗り過ごしてしまったとしても、歩いて戻ってリカバリーできます。だから、車内ではスマホやガイドブックとにらめっこするのではなく、人や街の様子を眺めたり、アナウンスや列車の音に耳を傾けたりしながら、気楽に路面電車の旅を楽しみましょう。
何となく行きたかった場所やお店を車内から見つけて、「あった!」みたいな感じで降車ボタンを押してパッと降りたりするのもすごく楽しいです。また、目的地に向かう途中で気になる何かを見かけ、「ここ面白そう、帰りに寄ってみよう」というような楽しみ方もできますし。
とにかく気軽に、どんどん乗ってみてください。

運転席のそばから街の様子を観察するのも楽しい
運転席のそばから街の様子を観察するのも楽しい

愛好家が実体験を元に厳選。乗ってほしい&見てほしい路面電車16選

路面電車とひとくくりに言っても、街ごと、路線ごとに、特徴や個性があります。車両のこと、風景のこと、電停のこと等々、その要素もさまざま。ちょっとマニアックな内容も含めて(笑)、ぜひ乗ったり見たりしてほしい路面電車を私の実体験からご紹介します。

1.【北海道】札幌市電(北海道札幌市)

サイドリザベーション方式で乗り降りラクラク

札幌市電の路面電車は面白いですよ。一般的に路面電車はセンターリザベーションといって道路の真ん中を走ることが多いんですが、札幌市電の西四丁目電停とすすきの電停の間が新しく開通して循環線になった区間はサイドリザベーションで、歩道のすぐ横に線路があります。すごく乗り降りしやすいですし、他の街の路面電車や札幌の他の区間と比べても突出して面白いです。観光客の皆さんも、「お、これがそうなのか」というような感じで楽しめると思います。

サイドリザベーション方式で、歩道の傍を電車が通る
サイドリザベーション方式で、歩道の傍を電車が通る

2.【関東】東京さくらトラム(都電荒川線)(東京都荒川区 等)

都電唯一の路面区間。急勾配を路面電車が走る

東京さくらトラムの愛称で親しまれる都電荒川線は、東京で唯一残る都電です。飛鳥山電停と王子駅前電停の間は、都電唯一の路面区間。それだけでも非常に貴重なことに加え、しかも急勾配なんですね。普通の鉄道ではまず走れないぐらいの急勾配を、路面電車が普通に上ったり下りたりします。
これは、なかなか面白い光景です。特別な車両を使っているわけではなく普通の都電の車両で、昔から線路があって古い電車も上り下りしていました。

急勾配を上り下りする路面電車の勇ましい姿に注目
急勾配を上り下りする路面電車の勇ましい姿に注目

3.【関東】江ノ島電鉄(神奈川県藤沢市〜鎌倉市)

江ノ電唯一の路面区間では、お神輿と電車の競演も

江ノ電」の愛称で全国的に有名な江ノ島電鉄。お祭りで、お神輿が電車の横を練り歩いている風景を見たことがある方もいらっしゃるでしょう。江ノ島と腰越の区間ですが、実は江ノ電の路面区間はここだけで、あとは専用の線路を走っています。道路の真ん中を単線で走る、貴重な路面区間です。Google マップで見ると、よく分かりますよ。

祭りの賑わいの中を路面電車が走る珍しい光景
祭りの賑わいの中を路面電車が走る珍しい光景

4.【中部】豊橋鉄道市内線(愛知県豊橋市)

路面電車が日本一の急カーブを曲がる姿は圧巻

中部では、まず豊橋鉄道ですね。市内線の井原電停から運動公園前電停方面に分かれる系統が一つありまして、元々の本線は真っすぐ行くんですが、井原電停から曲がる線路がとんでもない急カーブなんです。普通、どんなカーブでも台車が車体の外に出ることはないんですが、ここでは出るんですね。台車の端っこがポンって出ながら、グイーンって曲がっていく様子は圧巻の一言に尽きます。

鉄道路線で日本一の急カーブは車体から台車がはみ出るほど
鉄道路線で日本一の急カーブは車体から台車がはみ出るほど

5.【中部】博物館明治村 京都市電乗車体験(愛知県犬山市)

国内最古の路面電車に乗車できる貴重な体験

中部でもう一つ、少し変わり種ですが明治村の京都市電にもぜひ乗っていただきたいです。
京都で日本初の路面電車が走った当時の、路面電車の原型のような車両が走っています。電気を取ってモーターを回して、止まる時はブレーキをかけて……。そういったシンプルな仕組みで電車が動く様子を、間近で見て体感できます。また、折り返す時の、架線から電気を取るトロリーポールの向きを変える作業も見どころです。

京都市電として活躍した国内最古の路面電車
京都市電として活躍した国内最古の路面電車

6.【北陸】富山地方電鉄 市内電車(富山県富山市)

和と洋が溶け合った都市風景が印象的

北陸で路面電車といえば、富山地方電鉄の市内電車です。
見どころは、3系統(環状線)で2009年に開通した丸の内電停と西町電停間の単線区間。インターロッキング舗装で線路と車道が一体化され、ヨーロッパの町にある石畳のようになっています。電停も、背面の壁が透明で屋根が付いている、海外で見るような洒落たデザインです。そのバックには、富山城。和と洋が溶け合った、独特の都市風景に魅了されます。

路面電車ファンでなくとも魅了されるフォトジェニックな風景もみられる
路面電車ファンでなくとも魅了されるフォトジェニックな風景もみられる

7.【関西】阪堺電気軌道(大阪府大阪市・堺市)

大阪の都心から堺の旧市街へ

関西では、やはり阪堺電気軌道、通称「阪堺電車」でしょう。
上町線の起点となる電停・天王寺駅前と阿倍野の間では、高さ300mの超高層ビル「あべのハルカス」の足元を路面電車が走る風景が見られます。しかも古い車両なら、レトロな電車と近代的な高層ビルの対比が面白いですよ。
また、上町線の堺エリアもおすすめ。綾ノ町から御陵前までの区間は、堺の旧市街地に道路がまっすぐ延びていて、その真ん中を電車が走っています。沿線の周りには、お菓子屋さんや食べ物屋さん、工芸品屋さんなど古いお店がたくさんあるので、途中下車しながら巡るのがおすすめです。

超高層ビルの足元を路面電車が走る
超高層ビルの足元を路面電車が走る

8.【関西】京阪電鉄京津線(京都府京都市〜滋賀県大津市)

4両編成の鉄道車両が路面を走る特例路線

関西でもう一つ、京阪電鉄の京津線もおすすめです。京都から山を越えて大津市に入るまでは専用の線路で、そこからは道路の真ん中を走ります。この路線は京都市営地下鉄東西線と直通乗り入れしているため、特例で普通の鉄道車両が路面を走るんです。路面電車の車両は全長30m以下と定められていますが、京津線の車両は4両編成で66m。それが道路の上を走る姿は、他ではお目にかかれません。急勾配や連続するカーブなど、見るだけではなく乗っていても楽しい要素が多い路線です。

間近で見ると、その迫力に圧倒される
間近で見ると、その迫力に圧倒される

9.【中国・四国】岡山電気軌道(岡山県岡山市)

ホームも段もなく、線だけ。でも電停

中国・四国地方は多くて悩むんですが、まずは岡山電気軌道、通称「岡電」から。
ここでの推しは、電停です。東山線に中納言という電停があるんですが、交通教本でしか見たことがないような、路面に線が引かれているだけ(笑)。ホームがないのはもちろん、路面から1段上げた安全地帯にもなってないんですね。それでも地元の人は普通に乗り降りしているのを見ると、すごいなと感心します。電停の前には老舗きびだんご屋さんがあるので、ぜひお土産にどうぞ。

フォトジェニックな車両にも注目
フォトジェニックな車両にも注目

10.【中国・四国】広島電鉄(広島県広島市〜廿日市市)

広電で唯一残る、ホームのない平面電停

続いては、広島。広電の名前で親しまれる、広島電鉄です。またこれも、電停が面白いんですよ。
宮島線と市内線3系統の小網町電停は、ホームがありません。路面を白線で囲って「電車のりば」と書いてあるだけ。広電で唯一残っている、ホームのない電停です。そんな電停に一両のみの電車ならまだしも、何連節もある電車が停まって人が乗り降りするんですから、路面電車のある街は面白いと思います。
また、広電といえば広島駅の話題が熱いですよね。2025年8月、全国で初めて路面電車がJRの駅ビル2階に高架で直接乗り入れるようになりました。私も現地で体験しましたが、JRとの乗り換えがグンと便利になったと感じます。

連接の車両も停車し、乗降扱いが行われる
連接の車両も停車し、乗降扱いが行われる

11.【中国・四国】伊予鉄道(愛媛県松山市)

機関車が客車を引っ張って走るレトロな路面電車

四国では、まず松山市の伊予鉄道で運行されている「坊ちゃん列車」をおすすめします。
夏目漱石の小説「坊ちゃん」に登場する蒸気機関車を模したディーゼル機関車が客車を引っ張って走る、土日祝限定運行の観光路面列車です。客車の車内はもちろん、昔のものを復元した乗務員さんの制服もレトロ感満点。鉄道ファンでなくても、見て、乗って楽しめると思います。

ディーゼル機関車が引く路面電車は全国でもココだけ
ディーゼル機関車が引く路面電車は全国でもココだけ

12.【中国・四国】とさでん交通(高知県高知市・南国市・いの町)

路面電車ファン必見! とさでん名物トリプル・クロス

続いて四国のおすすめは、高知のとさでん交通。路線はシンプルな十文字ですが、南北に短く、東西にものすごく長いことが特徴です。
そんな路線での見どころは、「ダイヤモンドクロッシング」と呼ばれるはりまや橋の交差点。十文字の路線が東西南北に平面交差している、絶好の撮影ポイントです。ファンの間では、3方向からの電車が交差点上で同時に曲がるトリプル・クロスが話題になっています(笑)。また、軌道敷の緑化が進んでいることも見どころの一つ。芝生の中に延びる線路を電車が走っているような、美しい景色が見られます。

軌跡(奇跡)の景色と呼ばれるトリプル・クロス
軌跡(奇跡)の景色と呼ばれるトリプル・クロス

13.【九州】筑豊電気鉄道(福岡県北九州市〜直方市)

路面を走らない路面電車!?

九州も多いんですが、まずは変わり種のパターンとして福岡県の筑豊電鉄をご紹介します。
北九州市の黒崎駅前駅と直方市の筑豊直方駅を結び、地元では「ちくてつ」の名前で親しまれている路線です。なぜ変わり種かというと、路面の軌道を走っていないから(笑)。一般的な鉄道と同じ専用軌道で、路面電車タイプの列車が運行されています。もともと、西鉄北九州線の路面電車区間に乗り入れていた名残です。

鉄道路線をコンパクトな路面電車仕様の列車が走る
鉄道路線をコンパクトな路面電車仕様の列車が走る

14.【九州】長崎電気軌道(長崎県長崎市)

電停、路線、風景など、みどころいっぱい

さて地元の長崎ですね、あまり力を入れすぎないよう注意します(笑)。
まずは電停から。1系統の終点、崇福寺電停は線路の下に川が流れていて、ホームの一部が川の上にせり出すような形になっています。続いて、路線。出島電停と新地中華街電停の間は昔の軌道の方式がそのまま残っていて、三車線道路のうち二車線に軌道が敷かれています。車の車道は片側に一車線しかないため、長崎電軌で唯一、車の軌道乗り入れが許されている区間です。
そして、風景。長崎市役所近くの桜町通りは、名前の通り桜並木がキレイです。路面電車からも見えますし、電車と桜を一緒に撮影することもできます。

桜並木と路面電車が織りなす美しい春の風景
桜並木と路面電車が織りなす美しい春の風景

15.【九州】熊本市電(熊本県熊本市)

昼も夜も美しい、名城・熊本城の眺め

続いては、熊本市交通局が運営する路面電車、熊本市電です。
ここでの見どころは何といっても、日本三名城のひとつに数えられる熊本城の眺め。熊本市中心部の繁華街にある通町筋という電停から、熊本城の天守閣が目の前にドーンと見えます。お城と市電を一緒に撮影できる、絶好のフォトスポットです。日中はもちろん、お城がライトアップされる夜もまた格別。何度も立ち寄って、「ザ・熊本」な美しい風景を愛でてください。

熊本城をバックに路面電車が行き交う「ザ・熊本」な風景
熊本城をバックに路面電車が行き交う「ザ・熊本」な風景

16.【九州】鹿児島市電(鹿児島県鹿児島市)

市電の車内や沿線で桜島を見るならココ!

そして、最後は鹿児島市電をご紹介しましょう。
鹿児島といえば、桜島。市内観光に便利な市電に乗りながら、桜島の風景を眺めたいと思いますよね。でも、市電の車内や沿線で桜島を眺められる場所は、ごくわずかなんです。
そこでおすすめしたいのが、1号系統の新屋敷電停と武之橋電停の間にある武之橋。ここなら、建物などに邪魔されることなく桜島が一望できます。車内から眺めるのもよし、すぐ近くの武之橋電停で降りて市電と一緒に写真を撮るのものもよし。貴重な桜島の眺めを楽しんでください。

桜島と市電を一緒に撮れる貴重なスポット
桜島と市電を一緒に撮れる貴重なスポット

まとめ

街に近くて観光客に優しい路面電車。乗らない手はありません!

岩沼さんが言うように、路面電車は街との距離がとても近い乗り物。街なかの道路に敷かれていて、家や店の表側を走るということは、お店とも、名所とも、そして人とも近い。さらに、スピードもそれほど速くないので、じっくりと街を観察でき、観光客にも優しいとくれば、これはもう乗らない手はないでしょう。この先しばらくの旅先は、路面電車が走る街で決まり!

岩沼 健児

監修

路面電車愛好家

岩沼 健児

旅人よ、路面電車に乗ろう!