
指先に咲く日本の美!京都「おはりばこ」で体験する伝統工芸「つまみ細工」
古くから、日本人は四季折々の美しい風景や花を愛し、その美しさを暮らしの中に取り入れてきました。日本には和菓子や着物など、季節の移ろいを繊細に表現する文化が数多くありますが、そのひとつに「つまみ細工」があります。
一方で、日常で着物を着る機会がかつてに比べてずいぶんと少なくなり、つまみ細工を髪につける機会が減っているのも事実です。それに伴いつまみ細工の職人も大幅に減ってしまい、大切に受け継がれてきた技術が途絶えてしまうかもしれないという危機的状況にあります。そんななか、可憐な姿からは想像ができないほど繊細な技術が必要とされるつまみ細工の魅力をもっとたくさんの人に知ってもらいたいと、京都では職人のかたから直接つまみ細工の作りかたを教えてもらえる体験教室が登場しています。
一枚の小さな布を折り、花びらを一枚ずつかたちづくってできる「つまみ細工」。江戸時代から現在に至るまで受け継がれてきた日本の伝統工芸です。舞妓さんの髪飾りとして使われているほか、七五三や成人式などハレの日の髪飾りとして親しまれています。さらに近年ではアクセサリーやインテリアとしても注目が集まっています。
本記事では、そんなつまみ細工の歴史や技法、「おはりばこ」でのつまみ細工の体験教室についてご紹介します。ぜひ京都を訪れて、一枚の布から生まれる花々に込められた日本人の美意識に触れてみてください。
つまみ細工とは
つまみ細工が生まれたのは江戸時代中期と考えられています。小さな正方形の布を一枚ずつ折り、「つまむ」ことで花や動物のかたちを作ることから「つまみ細工」と呼ばれるようになりました。そのはじまりは諸説ありますが、そのひとつに、もともとは宮中の造花の文化からスタートしたという説があります。絹の生地や和紙の折り紙などを用いて、ひな祭りの際にひな人形とともに飾るさくらやたちばなを作っていたことが源流と考えられています。

また、大正に刊行された「女子技芸つまみ細工全書」によりますと、もともとは生花で作られていた「くす玉」を、布でかたちづくった花で作られ、そのくす玉が宮中に飾られ、それを見た宮中の侍女たちが真似して作りはじめたものが広がったとも考えられています。
その後、布を使って花をかたちづくるという技法が武家や商家の女性たちに浸透しました。布で花々を表現するつまみ細工は、花街文化とも相性が良く、舞妓さんの髪飾り=花かんざしとしても使われてきました。舞妓さんの花かんざしは、絹の羽二重(はぶたえ)という生地を使って作られていて、桜・菊・梅・藤など、四季折々の花が繊細に表現されています。季節に合わせて身に着け、花街のひとたちや武家の女性たちの装いを華やかにしました。主に京都と江戸で発展してきたと考えられています。
明治時代になるとつまみ細工が一般庶民にも親しまれるようになります。大正時代の女学校では教養として、お茶・お花などとともに裁縫やつまみ細工についても学んでいたようです。昭和時代になると第二次世界大戦がはじまるまでは人々の暮らしは豊かになり、正月などおめでたいときにはいい着物を着て、つまみ細工で作られた華やかな髪飾りをして新年を迎えるようになりました。年末には髪飾りを扱うお店に行列ができていたほどだそうです。
そして現在では着物を着る機会はずいぶんと減ってしまいましたが、七五三や成人式など人生の節目やハレの日の着物とあわせる髪飾りとして、華やかなつまみ細工をまといます。
このようにつまみ細工は、江戸時代以降の日本の服飾文化を語るうえで、欠かせない存在なのです。
つまみ細工の技法
基本になる技法はたった2種類です。それが「丸つまみ」と「剣(けん)つまみ」です。
「丸つまみ」は、正方形の布を折り重ね、先端を丸く整えて花びらをつくる技法です。柔らかい曲線が特徴で、桜や梅、つばき、あじさいなど、丸みがある花の表現で用いられています。丸みがあることから優しくかわいい印象を与えるため、七五三などの髪飾りによく取り入れられています。
「剣つまみ」は、正方形の布を折り重ね、先端を鋭くとがらせて花びらをつくる技法です。シャープなかたちが特徴で、菊や藤、笹、葉などを表現する際に用いられています。丸つまみと比べると、立体感や動きが出やすくなるのも特徴のひとつで、作品全体を引き締める役割も担っています。

「丸つまみ」も「剣つまみ」も正方形の生地を折って作っていくのですが、そのちがいは3回目の折り方がちがうだけです。たったそれだけで花びらの表情が大きく変わるから驚きです。
この2種類の技法を組み合わせることで、多彩な花々や草木、動物などを表現しているのが特徴で、つまみ細工の魅力のひとつでもあります。花の部分は「丸つまみ」、葉の部分は「剣つまみ」といったように、ひとつの作品で両方の技法が用いられることも少なくありません。たった2つの基本の技法からたくさんの花々が生み出されていることからも、つまみ細工の奥深さを感じられます。

“四季”を身に着ける「つまみ細工」
日本人は和菓子、茶室、着物、生け花、香りとさまざまな分野で四季を表現してきました。つまみ細工でも同様で、花や自然を布で表現して、四季の移ろいを愛でていました。それぞれの花にも意味が込められていて、たとえばつまみ細工の代表的なモチーフの「梅」は、厳しい寒さのなかで一番に花をつけることから“新しい春の訪れ”を表現しています。ほかにも「藤」は長く垂れさがる姿から優雅さや繁栄を表していたり、「紅葉」は秋の深まりを表現したりしています。小さな布に四季を映し出すところに、日本人が自然を慈しんでいたことがよくわかります。実は舞妓さんは月ごとに異なる花かんざしを身に着けています。この習慣も季節を身に着ける日本文化を象徴するひとつの例です。
「おはりばこ」で自分だけの「つまみ細工」を作ろう!
つまみ細工を体験し、自分だけのオリジナルのか花かんざしやクリップを作ることができる京都の工房をご紹介します。だれでも気軽に体験することができますが、実際に体験することで、つまみ細工職人たちのその技術の高さを実感できることでしょう。
「おはりばこ」とは
つまみ細工を実際に自分で作れる体験教室を開催しているのが、京都市北区にある「おはりばこ」です。京都・大徳寺のすぐ近く。歴史ある寺院や町家が点在し、古都の風情が感じられるこの地に、つまみ細工の魅力を伝える「おはりばこ」があります。「西陣織」の一大産地である京都・西陣の糸問屋として、1945年創業しました。当時は高級な西陣織に使われる糸を、京都じゅうの職人へ届けていたそうです。その後、組紐、帯締めの製作に携わるようになり、現在はつまみ細工を製造から販売まで一貫して行っています。7名の職人のかたが、日々美しいつまみ細工を生み出しています。
こちらの体験教室では、つまみ細工で「かんざし」や「クリップ」などを作ることができます。職人のかたがそばで手ほどきしながら、色を選ぶところから仕上げまでを体験できます。手ぶらで気軽に体験できるのもおすすめポイント。体験教室をはじめて約20年。これまでになんと2万人以上のかたが体験しているそうなのですが、それほど多くのかたが体験しているにも関わらず、完成できなかったひとはひとりもいません。だれでも楽しくチャレンジすることができます。日本語のほかに英語にも対応しているため、海外からの観光客のかたにもとても人気の体験です。

京都 おはりばこ 基本情報
- 郵便番号
- 603-8215
- 住所
- 京都府京都市北区紫野下門前町25 Googleマップ
- アクセス
- 京都市バス「大徳寺前」から徒歩3分
- 営業時間
- 10:00〜17:00
- 定休日
- 水曜日
- 電話
- 075-495-0119
つまみ細工体験 基本情報
- 体験料金
- 3,300円(税込)
- 体験時間
- 約1時間30分
- 対象年齢
- 10歳以上
- 対応言語
- 日本語・英語
- 体験予約
-
体験予約
※体験はフォームから申し込みが必要。体験希望日の3日前17時までが目安。それ以降はお電話で要相談。
実際に「つまみ細工」を作ってみよう!
つまみ細工の製作体験は「離れ」の建物で行います。大正時代の京町家を改装したものだそう。窓から見える坪庭が美しいロケーションです。

体験教室では自分だけのオリジナルのつまみ細工が作れます。というのも、お花のかたちや花びらの色などをたくさんの選択肢から自分の好きなものを選んで作ることができるからです。
まずは「花のかたち」から選びます。「うめ」、「きく」、「変わりはな」の3種類からひとつ選びましょう。選んだかたちによって、花びらのつまみかたが変わります。今回わたしは「きく」を選びました。サンプルを見ながら当日どれにするかゆっくりと決められるのはうれしいポイントです。みなさんどれにするか悩むそうなので、ゆっくり決めてOKです。

続いて、「台のかたち」を選びます。クリップ、かんざし、バッグチャームの3種類から選べます。バッグチャームのみ別途200円がかかります。かんざしは、それ自体に固定力がないため、まとめあげた髪に挿して使います。今回は気軽につけられるクリップにしました。

次は「お花の色」を選びます。12色から、うめ・変わりはなは6枚、きくは9枚選びますが、すべて同じ色でも2色、3色使ってもOKです。体験で使う生地は「正絹羽二重」という、舞妓さんの髪飾りと同じ生地です。今回作る「きく」は9枚必要なので、ピンセットを使い、濃いピンク色3枚、水色3枚、薄い紫色3枚を選びました。


さあ、実際に作っていきましょう。初心者でも不器用さんでも大丈夫。職人のかたが付きっきりで優しく教えてくれます。「きく」の花びらは「剣つまみ」という、とんがったかたちの花びらを9枚作ります。「うめ」は「丸つまみ」を6枚、「変わりはな」は「剣つまみ」を3枚、「丸つまみ」を3枚で作りあげます。
まずはピンセットで生地1枚を挟みます。正方形を、対角線になるようにして挟みましょう。このときピンセットの先がきっちりと角にくるようにしてください。そして半分に折ります。半分に折ったら三角形の直角に向かってピンセットを挟みなおします。


ピンセットを左に回転させてさらに半分に折ります。その後ピンセットを抜いて、三角形の直角側から挟んでさらに半分に折ります。


そして重なった先に向かってピンセットを挟みなおします。はみ出ている部分をハサミで切り、揃えます。切り揃える工程があるので、その前の工程までは少しくらい揃っていなくても気にしなくてかまいません。
切り揃えた部分をのりに埋めこみます。これでやっと花びら1枚ができあがりです。


これを9枚分繰り返していきます。慣れてくるとどんどん上達してくるのがわかります。作業がとても細かいため、集中して取り組むことができました。
のりに9枚分の花びらが埋まると、とてもかわいらしいです。まるでうさぎの耳のよう。この状態がかわいらしくて写真を撮るかたもたくさんいらっしゃるそうです。

花びらを作り終えたら、台に花びらを付けていきます。のりを付けた台座に、ピンセットで1枚ずつ花びらをつまみ、置いていきます。まずは1色目を等間隔になるように3枚分付けます。そして2色目、3色目と繰り返し、最後に花びらのバランスを整えると「きく」ができあがりました!




続いて、花の真ん中に据えるひと粒「花芯」を選びます。クリスタルと金モールの2種類がありますが、どちらを選ぶかによって、印象がずいぶん変わるそうです。金モールはかわいい雰囲気に、クリスタルは大人っぽい雰囲気になりそうだったので、今回はクリスタルを選んでみました。

花芯をつけたら、最後につまみ細工をより華やかに仕上げる「下がり」の色とかたちを選びます。つまみ細工でできた「ふじ」の下がりは7色から、正絹の「きりふさ」のさがりも7色から選べます。(バッグチャームを選んだかたは「きりふさ」のみから選べます)
どれがいいか、作ったつまみ細工をそれぞれの下がりにあてながら選ばせていただきました。花芯をクリスタルにし、少し大人っぽい雰囲気が出たので、下がりのかたちはつまみ細工の「ふじ」でかわいらしくしました。「下がり」の色は、花びらと同じ色の中から選んでも良し、全く違う色から選んでも良しですが、今回は統一感を出したかったので、花びらと同じ色である薄い紫色を選びました。

下がりをつけたら完成です!職人さんが丁寧に教えてくださったので、とてもお気に入りのつまみ細工を作ることができました!

京都のブランド杉「北山杉」でできた台座につけかえて、当日持ち帰ることができます。

ただし、まだ「のり」が完全に乾いていないため、作った当日は身につけることができません。もし京都旅行中に自分で作ったつまみ細工を身につけたい場合は、身につけたい日の前日までに体験して作っておくことをおすすめします!ぜひ作った日以降にレンタル着物を着て、自作のつまみ細工を髪につけて、京都の町を散策してみてください♪
体験した感想
この体験では伝統的な道具を使って、本格的なつまみ細工の技術を学ぶことができます。たとえば、生地は「羽二重生地」といって、つまみ細工の伝統的な正絹の生地で、染めも京都で手染めされて作られています。色の出方がちがうのが特徴です。ほかにも、のりは実際に職人のかたが使っている伝統的なでんぷんのりを体験でも使用しています。でんぷんのりを使用することで、乾くのに時間がかかるため、細かいところの修正が効いたり、自由度が高くなったりするそうです。七五三や成人式、卒業式などハレの日の髪飾りとして髪に付けることはこれまで何度もありましたが、まさか自分で作ることができるとは思ってもみませんでした。不器用な自分でも簡単に作ることができましたし、難しい部分は職人のかたが修正をしてくれて、きれいな仕上がりのつまみ細工になりました。花びらを1枚1枚、自分の手で作ることで愛着がわき、お気に入りができました!今度、浴衣や着物を着るときには自分で作ったつまみ細工を身につけてみたいと思いました。
職人さんが作ったつまみ細工をお土産に
つまみ細工の体験だけではなく、実際に職人のかたが作ったつまみ細工を購入することもできます。
「七五三」の際に子どもがつけるかわいらしい髪飾りから、成人式につける大人っぽく華やかな髪飾りまでさまざまです。ぜひお気に入りのひとつを見つけてお土産に購入してみてください。


つまみ細工のデザインは花や鳥、動物などさまざま。つまみの型の組み合わせで、いろいろ作れるため、花の種類だけかたちがあるそうです。
また、つまみ細工を趣味でしたいというかたへ、羽二重の生地や房などのつまみ細工の材料も取り扱っています。
体験をして、自分でも趣味でやってみたいというひとも少なくないそうです。そんなひとのために、通年でつまみ細工教室も行っているのだとか。6月はあじさいなど、12ヶ月分の花のつまみかたを教えていただけるそうです。
「おはりばこ」の店内でひときわ目をひいたのが、壁に飾られている、一面に敷き詰められたつまみ細工です。売り物ではなく店内の装飾なのですが、敷き詰められたつまみ細工は圧巻!まるでお花畑のようです。思わず見とれてしまうほど華やかでした。訪れた際はこちらもぜひチェックしてみてください。

まとめ
一枚の小さな布から生まれるつまみ細工の花々には、日本人がずっと大切にしてきた季節の移ろいや美意識、そしてなにより職人のかたがたの素晴らしい技が込められています。実際に自分でもつまみ細工を作ってみることで、一枚一枚の花びらにどれほどの手間と繊細な技術が必要なのかということを実感するとともに、手仕事の奥深さを体感することができました。京都を訪れた際は、名所を巡るだけでなく、こうした手仕事にも触れてみてください!日本文化の理解を深める体験としてもとてもおすすめです。